サジ投げ日記

誰かの暇つぶしになったら嬉しいです

アベックを観察した話

駅の改札前で抱き合っているカップル。それを2ヶ月に一度くらいのペースで見ている気がする。大体の場合がしっとりとした雰囲気なので、きっと暫しのお別れをしみじみ味わっているのだろう。もしくは、最後のお別れで、良かった時代に行ったイチゴ狩りとかの思い出に浸っているのだろう。

ま、そんなことはどうでも良いのだけど、今日また改札前で抱き合うカップルを見かけた。

で、それをきっかけにある出来事を思い出したのだ。

 

 

 

あれは中学2年の冬だった。

その日、僕は風呂上がりに星でも眺めようと思いベランダに出た。

ぼーっと夜空を眺めていると、男女の話し声が聞こえてきた。どこから聞こえてくるのか探ってみると、家の前にある公園からだった。そして、目を凝らしてよく見てみると、なんと二人の男女がベンチに腰かけながら抱き合っていたのだ。

 

 

中学生の僕はそれを発見した途端、もう星どころではなかった。

血眼になって二人を凝視したが、結構離れていてどんな感じになっているのか肝心なところは全く見えなかった。

ちきしょう、なんでウチには暗視スコープの一つもねえんだよ!と心の中で叫んでいた。

 

で、どうしてもはっきり見たいと思った僕は、接近戦に持ち込むことにした。

 

裏口から外に出て、こっそりと表にまわり、公園に侵入。そして、姿勢を低くして、外周に植えられている背の低い木の影に隠れながら背後からじりじりと近づいて行った。

 

その結果、6メートルぐらいまで二人に近づくことに成功したのだった。

 

二人は高校の制服を着ており、彼女の背中を彼氏が優しく抱きしめていた。

 

達成感と興奮がウルトラQのオープニングのようにごちゃ混ぜになりながら、僕の胸は次なる進展への期待でいっぱいになっていた。

 

観察を始めて10分。

しっとりしたムードに変わりないが、特に何の進展もなく、二人はお喋りを楽しんでいた。

僕は映画本編前のCMを延々と見せられているような気分になり始めていた。

 

またそれから待つこと10分・・・

進展なし。

いよいよ、ホームレス中学生みたいなってきた。さらに、湯冷めで体が冷え切っていた。

 

で、僕はすでに我に返っていたのだ。

もう、部屋に帰ってはじめの一歩を読んで寝たい・・・

そして、その3分後に引き返すことを決断したのだった。

 

 

 

しかし、その時事件が起きたのだ・・・

 

 

 

 

そう、潜んでいるのがバレてしまったのだ。

 

 

その原因は、服が木の枝に引っかかりそれが外れた反動でガサガサと音が鳴ってしまったからだ・・・

 

 

 「え?待って、誰かおるよ・・・」

こちらに顔を向けながら彼女が怪訝そうな声を発していた。

 

 

 

 

サーっと血の気が引くのを感じた。

頭の中は真っ白になり、その場を動けなくなっていた。

 

 

まもなくして、足音がこちらに近づいてきた・・・

 

 

 

「おい、何しとんじゃゴラぁ」

 

 

 

緊張がピークに達し、気づくと立ち上がっていた。そして、そこにいる相手を見て僕は志茂田景樹に出くわした原始人ぐらい強烈に驚いた・・・

 

 

 

なんとそこに立っていたのは、地元のヤンキー高校に通う中学の先輩だったのだ・・・

しかも、彼は周りからゴジラと呼ばれる程の荒くれ者で学校でも有名な人物だったのだ。

 

 

完全に追い込まれ、脳みそがショートした僕はとっさに「あ、あの、す…すみません。この辺に虹色のスーパーボール落ちてませんでしたかぁぁぁぁああ?」と尋ねていた・・・

 

 

「は?いや…見てねえけど・・・」

 

 

「そ、そうですか。あ、ありがとうございましたぁぁああー」

 

 

そう言って、僕はフォレスト・ガンプ級のダッシュで公園を後にしたのだった。

 

 

その後のことはあまり覚えていないのだが、気がつくと布団の上で冷え切った湯たんぽを抱えていた・・・

 

 

 

できれば行きたくない店の話

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行きたくないが、つい行ってしまう店がある。

パチンコ屋でも、呑み屋でもない

 

それは、コンビニだ。

正確に言うと会社最寄りのセブンイレブンのことである。

 

このセブンイレブンで僕は何度も嫌な思いをしており、その度に「二度と来るか!」と心に誓うのだが、立地の良さと他のコンビニに比べ弁当が美味かったりするのでつい「あ、いえいえ、先日の件なら気にしてませんよ~」みたいな面を引っ提げて利用してしまうのだ。

 

その嫌な思い出というのは例えば・・・

 

タバコを買いに行ったある日の出来事

店内に入ると初めて見る男性店員がレジに立っていた。

彼の風貌は、スキンヘッドで修業が厳しくて逃げだした気弱な坊さんのような感じだった。胸には初心者マークがついており、どうやら研修中らしい。

で、そんなことは気にせずいつものようにレジでタバコの銘柄を伝えると、その店員は急に360度くるくる回転し始めたのだ・・・・

吹き出しそうになるのを堪え、恐らく銘柄ではわからないのだと推測し次は棚の番号で伝えた。

すると、やっと回転を止め、要望通りのタバコを手に取る坊さん店員。

が、極度の緊張のためか手がプルプルと震えているのだ。

大げさではなく、振り幅が25cmくらいあった。それはもう、プルプルではなくブンブンであった。5歳くらいのバースデーケーキなら全てのロウソクの火を消せるくらいの勢いだった。

おいおい、大丈夫か~と思いながら見守っていると案の定、手に持っていたタバコをその震えの勢いで投げ飛ばしてしまったのだ。

それだけなら、全く問題なかったのだが・・

その後なにが起きたかというと、彼は飛ばしたタバコを焦りながら駆け足で取りにいき、タバコの一歩手前で何もない床につまづいてタバコを踏ん付けてしまったのだ・・・

 

僕は何か見てはいけないもののような気がして、レジ台の一点を見つめているフリをした。

すると、そのレジ台にペシャンコになったタバコがポンと置かれた

 

「いやいや、このタバコ潰れてるじゃないですか~」と僕が言うと坊さん店員は「あ、本当ですね、交換します」とかなり白々しく気付かなかったフリをして交換してくれた。そしてまた替えのタバコをブンブンしていた・・・

その時、彼の額には玉のような汗が光っていたので、恐らく大勝負に出たのだろうが、それは無理である。だって、僕は市原悦子よろしく現場を見ていたのだから。。。

 

 その後も坊さん店員は僕に何度かミスの贈り物をくれた。

チャンポン麺についているお酢をレンジにかけて爆発させたり、またタバコを飛ばしたり・・・

しばらく休んだらどうだ?と声をかけてあげたい。

 

 

 

 

そして、この店への苦手意識を決定づけたのがこれから書く出来事だ。

 

その週はナナコカードの新規入会キャンペーンが開催されており、行くたび何度も入会を勧められ、そのたびに面倒なので断っていた。

そのセブンイレブンはオーナー(石を磨いてそうなじいさん)を中心として、バイトのおばちゃんたちが張り切って働いており、こういったキャンペーンの勧誘はとてもしつこいのだ。

 

毎日のようにこの店を訪れる僕としては、早くキャンペーンなんか終わってくれ!と切に願うばかりだった。まあ、入会してしまえば良いのだが。。。なんか嫌だったのである。

 

で、キャンペーンが始まって5日目の昼、いつものように昼飯を買いに行った。

この店はオフィス街のちょうど良いところに立っているので、昼はもの凄く混んでおり、レジは長蛇の列になっている。

弁当を選び、レジに並んで順番を待つ。数分後、自分のレジの番がやってきた。

 

そこで、まずおかしなことが起きたのだ。

 

それまでレジを担当していたおばちゃんが隣のレジに移り、そして代わりに隣のレジからオーナーがやってきた。つまり、レジの人が急にスイッチしたのだ。

んーなんか嫌な予感がするな・・・と思いつつもさっさと終わらせたいので気にせず会計をすることに。

商品のバーコードを読み取ったあたりで、いつものように「ナナコカード入会しませんか~?」と声をかけてくるオーナー。

毎日、断っているんだからわかるだろ!と思いながら「あ、今日は結構です」といつものように断った。

 

そして、現金で支払い、お釣りを受け取ろうと手を出した時、考えられない事態が起きたのだ・・・・

 

 

 

なんと、オーナーは僕の差し出す手から30cmほど離れた高さでお釣りを離し、放り出すように渡してきたのだ。

 

当然、キャッチできず、辺りに散らばる小銭。それを見つめながら呆然とする僕に向かってオーナーが一言・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小銭のいらないナナコカードはいかがですか?

 

 

 

 

 

・・・・・。

 

IPPONグランプリでも通用しそうな強烈な一言だった。

 

 

で、僕はその言葉を聞いて何が起きたのかが理解できた。

恐らくあの店では、常連のくせにナナコカードに入会しない僕をブラックリストに入れており、次に来店したときにはオーナーに応対させよとの命令が出ていたのだろう。

そして、オーナーが無理やりにでも入会させる予定だったのだ。(知らんけど)

 

 

 

それから、僕は1カ月ほど行くのをやめた。

 

 

しかし、やはり「あ、お久しぶりです。ええ、元気にしてました。あ、あの件は、もう気にしないでください~ははは」みたいな面を引っ提げてまた通い始めてしまったのだ。

 

 

 

 

 

結局カードは作りました。

 

 

 

 

 

缶を捨てよ、町へ出よう

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夕立のあとの急に明るくなるあの感じがとても好きだ。

空気中のホコリやなんかも地面に落ちて辺りが透き通って見える。

そんな時はいつも「あ~どっかに出かけてえな」と思いながら缶ビールを片手に家の近所を歩き回っている。これを自分の中ではパトロールと呼んでいる。

 

つい先日も夕立があり同じような気持ちになったので、いつものように缶ビールを買った。それを飲みながら家の周りをパトロールしていたのだが、ふとあることに気付いた。

 

これって、どこにもでかけてねえじゃねえか

 

そう、ただ雨上がりを理由にしてビールを飲んでいるだけの自分に気付いたのである。

僕にとってこれは由々しき事態なのだ。

それはなぜかと言うと、「どこかに出かけたい」という気持ちをビールで落ち着かせ自分の脳みその中で完結させているからだ。つまり、結局何も感じることなくどんどん自分の幅を狭めているのが怖いのだ。

これが慢性化した先には、ガイドブックを読んだだけで旅行に行った気になったりするのだろう。この状態を名づけるなら、脳内トラベラーか。いや、ちょっとカッコ良すぎるので、初老系男子とでも名付けておこう。そうはなりたくないもんじゃ・・・

 

で、そんなことを考えていたら、小学校5年生のある一日を思い出した。

まだビールの味も知らず、どこにでもチャリンコで出かけていく好奇心旺盛な「男子」だった頃の話である。

 

 

岡山県のド田舎で暮らしていた僕らの遊び場と言えば、山やら川やら野っぱらであった。夏のある日、いつものように仲の良い友達D君とM君、僕の3人で山で遊んでいるとボロボロの立て看板を発見した。

 

その看板には「ハイキングコース ←初心者・上級者→」と書かれていた。

 

 

こんな手入れもされていない山に、ボロボロの立て看板。さらに難易度が選択制になっている。当然、僕たち3人は、目を輝かせた。スタンド・バイミー状態である。

 

その看板を前に僕たちは、あれこれ想像を働かせ話し合った。

その結果、上級者コースを選び山をいくつも超え、たどり着いた謎の町で見たことのないお菓子やら民芸品的な何かを買ってこようという結論に至った。

3人はもはやスタンド・バイミーを超えて、未知の大陸を目指す冒険家状態になっていたのだ。そう、そのままの意味でコロンブスの卵と化していた。

で、その日は3人ともお金を持っていなかったので、出直して翌日出発することになった。

 

その翌日というのは土曜日で授業が昼で終わるのだった。

 

帰宅後、いくらか小銭の入ったマジックテープの財布と銀色の水筒に麦茶を入れて僕は集合場所であるハイキングコース入口へと急いだ。

 

3人が揃い、いよいよ出発の時がやってきた。

僕らはそれはもう凄い期待と興奮に包まれていた。

どれくらい興奮していたかと言うと、D君はイノシシ撃退用に父親の木製バットを握りしめ、M君は栄養補給のためにわらび餅を持参するくらいにである。かく言う僕も、駄菓子屋で売っているビニール容器に入ったコーラ味の変なジュースを4本リュックの中に入れていた。

 

ハイキングコースは一応道になってはいたが、人が通っていないためところどころ獣道のようなところもあった。急な登り坂やちょっとした崖の岩を手でつかみながら登るところなんかもあり、上級者向けを実感し3人はいっそう喜んだ。

 

冒険を始めてから2時間以上が経ち、山を2つ程超えた頃、田舎のコロンブス3人衆といえどさすがに疲労が溜まり始めていた。そして何より暑く喉が渇いた。とっくの昔に皆の水筒は空である。ちなみに僕のジュースも最初の休憩でM君のわらび餅と共になくなっていた。そして、いつの間にかD君の手から護身用のバットも消えていた・・・

 

それでもなんとか互いを励まし合い、3つ目の山を超えたとき、目の前の景色がどんどん開けてきた。そう、ハイキングコースのゴールが近づいてきたのだった。

やっと謎の町についた、見たことのないようなお菓子たちに会える!と、 嬉々として猿のように山道を駆け下りた僕たちが目にしたのは、田園だった・・・

恐らく、玉置浩二も幼少期に同じ経験をしてあの名曲が生まれたに違いない。

 

夏の日差しの中、あぜ道をトボトボと歩く絶望コロンブスたち。

しかし、少し歩いていると、舗装された道に出ることができた。

そして、その道を進んでいると一軒の商店を発見した。で、僕たちはそこで自分たちの町でも見たことのあるアイスクリームを買って食べたのだった。

 

この話しはこれで終わりではない。

 

そう、来ちゃったからには帰らなければならないのだ。。。

 

もうあの地獄のハイキングコースを戻る体力は残っていなかった。

親に助けを求めようにも公衆電話なんて見当たらない田舎。

絶望的だった。。。

 

3人で頭を抱えているとD君がある案を思いついた。僕とM君はその案にすぐさま賛同したのだった。

 

その案とは、ヒッチハイクである。

なぜ、小学生がそんな案をと思うだろうが、当時は電波少年が人気真っ只中だったため、みんなヒッチハイクを知っており、なんなら少し興味を持っていたのだ。

 

早速、車の通りが多い道に移動して、3人して親指を天高く掲げて待つことにした。

車の通りが多いと言っても田舎なので、調子が良くて30分に1台くらいの割合だが・・

 

車が通るたびに親指を立てて「乗せてくれ~」なんて叫んでいたが、誰も止まってはくれない。それは当然のことで、どう見ても地元の馬鹿な子供たちが電波少年の真似事をして遊んでいるようにしか見えないのだ。

 

3台ほど見送ってこのままでは駄目だと思った僕たちは、もっと悲壮感を漂わせアピールしなければという結論に至った。

で、その時考えたアピール作戦とはこんな内容だった。

 

【その1】

瀕死アピール作戦

3人ともうつ伏せに寝っ転がって右手を伸ばし、親指を立てる。

ウルトラマンが飛んでいるみたいな恰好)

結果

前衛的な遊びと勘違いされ、ヒッチハイクだと気付かれることもなく失敗。

 

【その2】

友達が大ケガしたんです作戦

三人四脚の要領で、真ん中の人が左右2人の肩を借りて足を引きずりながら歩く。

左右の2人は真ん中の人を励まし、真ん中の人は泣きながら友達の肩越しに腕を伸ばし親指を立てる

結果

泣きながら親指を立てているので、ただの突き指と判断され失敗

 

【その3】

 接触事故を装う作戦

 車が通り過ぎる直前に3人ともスッ転んで倒れる。

それによって運転手は「え?今もしかして当たったの!?」となり、強制的に止まらせる。

結果

運転手がその奇行に恐怖を感じ、さらに速度を上げて走り去り失敗

 

 

 

・・・アピール作戦は全て失敗に終わったのだった。

 

日も傾き始め、いよいよ本当に帰れないかもしれないという焦りが3人に漂い始めた時、M君が新たな作戦を考え付いた。

 

 

まさかこの作戦が僕たち3人を救うことになるとは・・・

 

 

その作戦はこんな内容だった。

僕たちがヒッチハイクをしていた道の横には、深さ・幅共に1.3メートルほどで水深も40cmくらいある用水路が流れていた。

で、3人で並んで歩いていると突然1人が足を滑らせてその用水路に落ちてしまい、慌てた二人が救助しようとするが持ち上がらない。

それを見た大人が心配して助けてくれる。

で、この流れを車が前方に確認できたときに発動するという筋書きだ。

もはやヒッチハイクではない・・・

 

しかし、もう手段を選んでいる場合ではなかったため、D君も僕も賛同しこの作戦を実施することにした。

川に落ちる役は、ジャンケンで負けたD君が担うことになった。

 

そして、準備が整い待つこと数分後、前方から白い軽自動車が走ってきた。

 

僕たちは打ち合わせ通り3人横並びに歩き始め、頃合いを見計らってD君に「いけ!」と声を掛けた。その瞬間、潔く水泳の飛び込みよろしく用水路に飛び込むD君。しぶきが道路にまで届く勢いだった。

あまりの馬鹿らしさに笑い死にそうになったが、なんとか「ヤバい!と、友達が用水路に足を滑らせて落ちちゃったよ~」という演技をしながらチラチラと近づいてくる車を確認していた。

 

すると、なんと僕たちの目の前で車が止まり、ばあさんが降りてきたのだ。

 

心の中で「やった~!」と叫びながら、ばあさんに「すみません、友達を引っ張りだすのを手伝ってください」と声をかける僕とM君。

 

ばあさんも何がなんだかわからないが、こりゃ一大事とばかりに走って駆け付けてくれた。

 

そして、用水路の中のD君を見て、ばあさんが放った一言にみんな唖然としたのであった。

 

 

 

 

 

え、D?あんたこんなとこで何をしとるんかね!

 

 

 

まさかの展開だが、そのばあさんはD君のばあさんだったのだ。

実は、僕たちが行き着いた場所というのはD君のばあさんの家の近くで、買い物帰りにたまたま通りがかったところだったのだ。

 

 

僕たちの冒険は強制送還によって幕を閉じた。

 

・・・D君、飛び込まなくてもよかったんじゃないか、、、

 

 

 

 

 

 

 

新人サラリーマンの失敗談

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7月1日の土曜。

夏の始まりを感じさせる晴れた休日だが、僕は会社の事務所で椅子を3つ連結させて寝っ転がっている。そう、残念なサラリーマンによる無念の休日出勤だ。

 

 

 

休日に出勤するからには、さぞ一大事でサラリーマン冥利につきる重要なプロジェクトにでも関わっているのだろうと思うかもしれないが、実情はなんのことはないただの電話番なのである。プルルと鳴ったらもしもしする人だ。

 

 

 

で、勤務時間は9時から14時までなのだが、結局その間一度も電話は鳴らなかった。

自販機にお金を入れて1時間悩んだ挙句、結局何も買わなかったみたいな虚無感だけが残る結果となった。

 

 

今の会社に勤めて6年目なのだが、思い返すと同じような虚無感に襲われたシーンが何度もあった。(会社というより自分に問題があるような気もするが・・・)

今回はそんな中のある一日について書こうと思う。

 

 

 

 

 

 

あれは、5年前の夏。まだ1年目の新人だった僕には担当しているお客さんはおらず、先輩のアシスタントをする日々を送っていた。

そんなある日、会社に一本の電話がかかってきた。

かけてきたのは、隣県にある個人商店の二代目社長だった。

その電話の要件は、今年で創業50周年だから盛大にイベントやチラシを作りたいので相談に乗って欲しいという内容だった。

そこまでは良かったのだが、その相談したい日というのが明日の朝という急な依頼だったのだ。

 

 

先輩たちはなかなかに忙しくしており、社内で暇なのは僕だけだったので必然的にその案件は僕が担当することになった。

 

 

 

 

そして翌日

 

 

最寄駅に着くとそこは、スーツ姿で立っているだけで浮いてしまうようなかなりの田舎町だった。

 

 

 

商店に到着すると、親切そうな社長とその奥さんがコーヒーなんか出してくれて「わざわざすみませんね~」なんて言いながらもてなしてくれた。

初めての一人打ち合わせで、内心ビクビクだったが、二人の人柄によって不安は薄らいでいた。

 

 

しかし、社長と奥さんとしばし雑談をしている間に僕はふと我に返った。

 

 

 

そう、自分がペーペーのド素人であることを急に思い出したのだ。

 

 

 

なぜ、それを思い出したかというと、社長と奥さんの言葉の端々に僕に対する過度な期待を感じたからだ。(節目の年だからプロの方にお願いしたくって~とか、多少お金がかかっても良いんで盛り上がる企画で~など)

あー期待してくれてるんだな~→よし頑張るぞ~→ん、何を頑張れば?→あ、何もわからん・・・この流れである。

 

 

 

確かに、田舎町の個人商店に代理店(しょぼい零細企業だが・・)の営業が来て打ち合わせをするなど今までなかっただろうから、二人が期待してしまうのは当然のことだった。

 

 

 

こんな善良な人達をガッカリさせたらヤバい・・

そう思うとだんだんと憂鬱になり、トイレに行く振りをして、しれっと帰ってしまおうかと思った。

この期待感の中で、全くのド素人ぶりを発揮してしまったなら、一体どうなってしまうのだろうか。もしかすると、世界が滅亡してしまうんじゃないだろうか。いや、そこまでいかなくても、きっと五大陸のうち一つくらいは謎の沈没を遂げるだろう。などと世界を揺るがす悲劇が起こるに違いないと勝手なことまで考えていた。

 

 

 

  

で、もはや仕方がないので、覚悟を決めて今回の本題に入ろうと思った矢先、店の奥から大滝秀治を四角くしたような顔の気難しそうなじいさんが出てきて3人が話しているテーブルにゆっくりと腰を下ろした。

 

 

 

 

 

そのじいさんの正体は、先代社長でその商店の創業者だった。

 

 

 

 

 

そして、実はこのじいさんが今回の話の最重要人物だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じいさんにサラリーマン的挨拶(名刺交換)を終え、いざ仕切り直して本題に話を持っていき、今回のプランのプレゼン、そして相手の要望の聞き取りを行った。

 

すると、これがなぜか自分が思っていた以上にスムーズにいくのだ。スラスラ喋れて、ホイホイ質問なんかもできる。

 

 

 

 

 

さっきまでの不安が、嘘のように晴れて僕は自分が天才なのではないか、いや~参った我ながらあっぱれ状態になっていた。

もっと言えば、日頃雑用(よくわからないしゃもじの生産地を調べるとか)を押し付けてくる先輩はもしかするとベスト・キッド的な鍛え方をしてくれていたのでは?なんて想像して胸を熱くした。

 

 

 

 

それくらい理想的な打ち合わせだったのだ。そう、途中までは・・・

 

 

 

 

打合せを初めてから1時間くらい経ってようやく記念祭の大枠が固まってきて、あとは持ち帰って見積りやら具体的なスケジュールをと、思っていると突然、先代社長であるじいさんが「お客さんに贈る記念品にはこだわりたい。今日何か案を持ってきてないか?」と問いかけてきた。

 

 

咄嗟に僕は「ありますよ」と答えたのだが、答えた後に後悔した。

実は準備する時間がなく、記念品に関してはかなり適当なチョイスをしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

どれくらい適当かと言うと、その品というのは先輩の机に置いてあった現在進行形で使用されている汚い湯呑なのだ。

 

 

あまりにも時間がなく、何も考えずとりあえず目に入ったその湯呑をカバンの中に放り込んでいた。何もないよりマシだろうと思ってやったことだが、後から考えるとない方が断然マシだった。

 

その理由は、汚いとかそういう問題ではなくデザインがふざけているこの一点だ。

 

その湯呑は・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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 そう、お寿司屋さんの湯呑なのだ。

 

 

 

なぜ、商店の50周年記念で寿司屋の湯呑を配るのか?という質問には、あの池上彰も裸足で逃げ出すだろう。

 

 

 

 で、内心これは、出せない・・・と思いつつも先代のプレッシャーに負け僕は一か八かこの湯呑をテーブルの上に置いた。

 

 

 

湯呑:トンッ (テーブルに着陸する音) 

 

 

 

 

 

 

 

 

社長:・・・・・・・へ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥さん:・・・・・・・ほえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先代社長:おわん、こんなガラクタ持って来よって、どつきまわしたろか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰り道、僕はその湯呑を駅のゴミ箱に捨てた。

 

 

 

そして、その案件は結局、先代社長の怒りが収まらず破断になってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会社に帰ると、先輩が「俺の湯呑知らんか?」とたずねてきたので、「あんな湯呑使わない方が良いですよ」とアドバイスしておいた。