アベックを観察した話
駅の改札前で抱き合っているカップル。それを2ヶ月に一度くらいのペースで見ている気がする。大体の場合がしっとりとした雰囲気なので、きっと暫しのお別れをしみじみ味わっているのだろう。もしくは、最後のお別れで、良かった時代に行ったイチゴ狩りとかの思い出に浸っているのだろう。
ま、そんなことはどうでも良いのだけど、今日また改札前で抱き合うカップルを見かけた。
で、それをきっかけにある出来事を思い出したのだ。
あれは中学2年の冬だった。
その日、僕は風呂上がりに星でも眺めようと思いベランダに出た。
ぼーっと夜空を眺めていると、男女の話し声が聞こえてきた。どこから聞こえてくるのか探ってみると、家の前にある公園からだった。そして、目を凝らしてよく見てみると、なんと二人の男女がベンチに腰かけながら抱き合っていたのだ。
中学生の僕はそれを発見した途端、もう星どころではなかった。
血眼になって二人を凝視したが、結構離れていてどんな感じになっているのか肝心なところは全く見えなかった。
ちきしょう、なんでウチには暗視スコープの一つもねえんだよ!と心の中で叫んでいた。
で、どうしてもはっきり見たいと思った僕は、接近戦に持ち込むことにした。
裏口から外に出て、こっそりと表にまわり、公園に侵入。そして、姿勢を低くして、外周に植えられている背の低い木の影に隠れながら背後からじりじりと近づいて行った。
その結果、6メートルぐらいまで二人に近づくことに成功したのだった。
二人は高校の制服を着ており、彼女の背中を彼氏が優しく抱きしめていた。
達成感と興奮がウルトラQのオープニングのようにごちゃ混ぜになりながら、僕の胸は次なる進展への期待でいっぱいになっていた。
観察を始めて10分。
しっとりしたムードに変わりないが、特に何の進展もなく、二人はお喋りを楽しんでいた。
僕は映画本編前のCMを延々と見せられているような気分になり始めていた。
またそれから待つこと10分・・・
進展なし。
いよいよ、ホームレス中学生みたいなってきた。さらに、湯冷めで体が冷え切っていた。
で、僕はすでに我に返っていたのだ。
もう、部屋に帰ってはじめの一歩を読んで寝たい・・・
そして、その3分後に引き返すことを決断したのだった。
しかし、その時事件が起きたのだ・・・
そう、潜んでいるのがバレてしまったのだ。
その原因は、服が木の枝に引っかかりそれが外れた反動でガサガサと音が鳴ってしまったからだ・・・
「え?待って、誰かおるよ・・・」
こちらに顔を向けながら彼女が怪訝そうな声を発していた。
サーっと血の気が引くのを感じた。
頭の中は真っ白になり、その場を動けなくなっていた。
まもなくして、足音がこちらに近づいてきた・・・
「おい、何しとんじゃゴラぁ」
緊張がピークに達し、気づくと立ち上がっていた。そして、そこにいる相手を見て僕は志茂田景樹に出くわした原始人ぐらい強烈に驚いた・・・
なんとそこに立っていたのは、地元のヤンキー高校に通う中学の先輩だったのだ・・・
しかも、彼は周りからゴジラと呼ばれる程の荒くれ者で学校でも有名な人物だったのだ。
完全に追い込まれ、脳みそがショートした僕はとっさに「あ、あの、す…すみません。この辺に虹色のスーパーボール落ちてませんでしたかぁぁぁぁああ?」と尋ねていた・・・
「は?いや…見てねえけど・・・」
「そ、そうですか。あ、ありがとうございましたぁぁああー」
そう言って、僕はフォレスト・ガンプ級のダッシュで公園を後にしたのだった。
その後のことはあまり覚えていないのだが、気がつくと布団の上で冷え切った湯たんぽを抱えていた・・・