サジ投げ日記

誰かの暇つぶしになったら嬉しいです

新人サラリーマンの失敗談

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7月1日の土曜。

夏の始まりを感じさせる晴れた休日だが、僕は会社の事務所で椅子を3つ連結させて寝っ転がっている。そう、残念なサラリーマンによる無念の休日出勤だ。

 

 

 

休日に出勤するからには、さぞ一大事でサラリーマン冥利につきる重要なプロジェクトにでも関わっているのだろうと思うかもしれないが、実情はなんのことはないただの電話番なのである。プルルと鳴ったらもしもしする人だ。

 

 

 

で、勤務時間は9時から14時までなのだが、結局その間一度も電話は鳴らなかった。

自販機にお金を入れて1時間悩んだ挙句、結局何も買わなかったみたいな虚無感だけが残る結果となった。

 

 

今の会社に勤めて6年目なのだが、思い返すと同じような虚無感に襲われたシーンが何度もあった。(会社というより自分に問題があるような気もするが・・・)

今回はそんな中のある一日について書こうと思う。

 

 

 

 

 

 

あれは、5年前の夏。まだ1年目の新人だった僕には担当しているお客さんはおらず、先輩のアシスタントをする日々を送っていた。

そんなある日、会社に一本の電話がかかってきた。

かけてきたのは、隣県にある個人商店の二代目社長だった。

その電話の要件は、今年で創業50周年だから盛大にイベントやチラシを作りたいので相談に乗って欲しいという内容だった。

そこまでは良かったのだが、その相談したい日というのが明日の朝という急な依頼だったのだ。

 

 

先輩たちはなかなかに忙しくしており、社内で暇なのは僕だけだったので必然的にその案件は僕が担当することになった。

 

 

 

 

そして翌日

 

 

最寄駅に着くとそこは、スーツ姿で立っているだけで浮いてしまうようなかなりの田舎町だった。

 

 

 

商店に到着すると、親切そうな社長とその奥さんがコーヒーなんか出してくれて「わざわざすみませんね~」なんて言いながらもてなしてくれた。

初めての一人打ち合わせで、内心ビクビクだったが、二人の人柄によって不安は薄らいでいた。

 

 

しかし、社長と奥さんとしばし雑談をしている間に僕はふと我に返った。

 

 

 

そう、自分がペーペーのド素人であることを急に思い出したのだ。

 

 

 

なぜ、それを思い出したかというと、社長と奥さんの言葉の端々に僕に対する過度な期待を感じたからだ。(節目の年だからプロの方にお願いしたくって~とか、多少お金がかかっても良いんで盛り上がる企画で~など)

あー期待してくれてるんだな~→よし頑張るぞ~→ん、何を頑張れば?→あ、何もわからん・・・この流れである。

 

 

 

確かに、田舎町の個人商店に代理店(しょぼい零細企業だが・・)の営業が来て打ち合わせをするなど今までなかっただろうから、二人が期待してしまうのは当然のことだった。

 

 

 

こんな善良な人達をガッカリさせたらヤバい・・

そう思うとだんだんと憂鬱になり、トイレに行く振りをして、しれっと帰ってしまおうかと思った。

この期待感の中で、全くのド素人ぶりを発揮してしまったなら、一体どうなってしまうのだろうか。もしかすると、世界が滅亡してしまうんじゃないだろうか。いや、そこまでいかなくても、きっと五大陸のうち一つくらいは謎の沈没を遂げるだろう。などと世界を揺るがす悲劇が起こるに違いないと勝手なことまで考えていた。

 

 

 

  

で、もはや仕方がないので、覚悟を決めて今回の本題に入ろうと思った矢先、店の奥から大滝秀治を四角くしたような顔の気難しそうなじいさんが出てきて3人が話しているテーブルにゆっくりと腰を下ろした。

 

 

 

 

 

そのじいさんの正体は、先代社長でその商店の創業者だった。

 

 

 

 

 

そして、実はこのじいさんが今回の話の最重要人物だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じいさんにサラリーマン的挨拶(名刺交換)を終え、いざ仕切り直して本題に話を持っていき、今回のプランのプレゼン、そして相手の要望の聞き取りを行った。

 

すると、これがなぜか自分が思っていた以上にスムーズにいくのだ。スラスラ喋れて、ホイホイ質問なんかもできる。

 

 

 

 

 

さっきまでの不安が、嘘のように晴れて僕は自分が天才なのではないか、いや~参った我ながらあっぱれ状態になっていた。

もっと言えば、日頃雑用(よくわからないしゃもじの生産地を調べるとか)を押し付けてくる先輩はもしかするとベスト・キッド的な鍛え方をしてくれていたのでは?なんて想像して胸を熱くした。

 

 

 

 

それくらい理想的な打ち合わせだったのだ。そう、途中までは・・・

 

 

 

 

打合せを初めてから1時間くらい経ってようやく記念祭の大枠が固まってきて、あとは持ち帰って見積りやら具体的なスケジュールをと、思っていると突然、先代社長であるじいさんが「お客さんに贈る記念品にはこだわりたい。今日何か案を持ってきてないか?」と問いかけてきた。

 

 

咄嗟に僕は「ありますよ」と答えたのだが、答えた後に後悔した。

実は準備する時間がなく、記念品に関してはかなり適当なチョイスをしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

どれくらい適当かと言うと、その品というのは先輩の机に置いてあった現在進行形で使用されている汚い湯呑なのだ。

 

 

あまりにも時間がなく、何も考えずとりあえず目に入ったその湯呑をカバンの中に放り込んでいた。何もないよりマシだろうと思ってやったことだが、後から考えるとない方が断然マシだった。

 

その理由は、汚いとかそういう問題ではなくデザインがふざけているこの一点だ。

 

その湯呑は・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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 そう、お寿司屋さんの湯呑なのだ。

 

 

 

なぜ、商店の50周年記念で寿司屋の湯呑を配るのか?という質問には、あの池上彰も裸足で逃げ出すだろう。

 

 

 

 で、内心これは、出せない・・・と思いつつも先代のプレッシャーに負け僕は一か八かこの湯呑をテーブルの上に置いた。

 

 

 

湯呑:トンッ (テーブルに着陸する音) 

 

 

 

 

 

 

 

 

社長:・・・・・・・へ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥さん:・・・・・・・ほえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先代社長:おわん、こんなガラクタ持って来よって、どつきまわしたろか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰り道、僕はその湯呑を駅のゴミ箱に捨てた。

 

 

 

そして、その案件は結局、先代社長の怒りが収まらず破断になってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会社に帰ると、先輩が「俺の湯呑知らんか?」とたずねてきたので、「あんな湯呑使わない方が良いですよ」とアドバイスしておいた。